【Skip in the future】 〜Scene.1 Welcome to the future.〜
ACT 2. Welcome to Tokyo crazy paradise!
ようやく頼まれた荷を倉庫へ運び終え、私はふぅっと一息ついた。。
『これで終わりかな?』
『はい!ありがとうございます。すみません、手伝わせてしまって』
中身が何なのかは知らなかったけれども、大きさの割にやけに重たいダンボールと格闘している時に廊下でばったり会ったのが、同じ事務所で私の尊敬している先輩俳優の敦賀さんだった。
フラフラと覚束ないだろう私の足取りをじっと見ていたのだろうか、敦賀さんはくすくすと笑いながら、重くて仕方がなかったダンボールをひょいっと私の手から取り上げた。
もちろん私は、自分の仕事だから手伝って貰うわけにはいかないと何度も抗議したのだけれど、敦賀さんがそれをすんなり受け入れてくれるわけもなく、何だかんだといつものように上手く……言い方は悪いけれども、言いくるめられてしまい、結局手伝って頂いてしまったのだった。
超人気俳優の敦賀蓮に、まだまだ新人の域を出ていないだろう私如きの手伝いをさせるなんて、本当におこがましいと分かっているから、私だって丁重に遠慮した。後輩として先輩にこんな事させられないし、あの“敦賀蓮”に雑用なんて洒落にならない。だから何度も断ったけど……でも、敦賀さんって大きな声で言えないけど、かなり強引で、口先の魔術師かと思うほど口達者。それにあのキュラキュラとしたスマイルの前にして抵抗するのもかなり骨が折れてしまう。冗談ではなく本当に怖いのだからそれも仕方がない。
それにあんまりやりすぎると、それこそできるなら今後一切遠慮したい“大魔王”になりそうで、本当にこれだけは勘弁ごめんなさいすみません申し訳ありません……以下無限状態。
とりあえず誰にも見つからなくて良かったというのが本音だ。
私は決してそんなつもりなんて恐れ多いので全く思わないのだけど、第三者から見ると私と敦賀さんって“仲良し”に見えるらしい。
ホントに皆どこをどう見てそんな事言ってるのか分からないけど、その根も葉もない噂のおかげで、結構やっかみに遭っていたりする……まあ別に大したことないから放置してるけど………せいぜい陰口程度だし。
そんな事チクチク言うくらいなら、自分から話しかければいいのに。
敦賀さんは優しいから、誰とだって気さくに話してくれる。
敦賀さんは人を選んで話をするような心の狭い人じゃない。確かに意地悪似非紳士だとは思うけど、基本的には優しい。そして、役者としても人間としても尊敬に当たる人なのだ。
皆、敦賀さんの上辺ばかり見てて、本当に良いところって見ていないような気がするのは私の気のせいかのだろうか。
何だろう?何かそれがすごく腹立たしいような……。
(って、私何言ってるのかしら。今考えるべきことはそれじゃないでしょう!?私が思いを馳せるべきなのは、それ以後一体何が遭ったのかってことよ!そうよ!そうだったわ!しっかりしなさいよ、私っ!)
敦賀さんのことを考えるとつい脱線してしまいがちになる。
特に今なんて、こんなよく分からない状況に陥っているのだから、それこそしっかり思い出すべきことを思い出さなくちゃならないのに。
私は、命子先生に気づかれない程度の溜息を吐き、もう一度記憶を辿った。
指示されていた倉庫にダンボールを運び込んだ。
倉庫は荷物が山積みにされていて、それこそ事務所に関係なさそうな妙なモノが沢山あって、それも無造作に放置されていたから、纏めるだけ纏めようと片づけを始めたんだった。
もちろん敦賀さんには、もう行って貰おうと思ってたんだけど、『今日はもう仕事終わったから、手伝うよ』ってにっこり笑顔で言われて、やっぱり成し崩し的に手伝って貰ってしまったのだ。
『それにしても、何かどうでも良さそうなモノが多くないですか?』
社内備品、衣装やセットとも言えないだろう珍妙な形をしたガラク……失礼、物珍しい物品の数々に私は思わず言葉を零すと、敦賀さんが苦い笑いを浮かべながらそれに同意するように頷いた。
『そうだね。多分この変わったものは全部社長の物だと思うよ』
『え?そうなんですか?』
驚いて聞き返すと、敦賀さんはコクリと首を縦に振った。
『うん。珍しいものが好きだからね。あの人は』
『あー、何か分かるような気がします』
あの社長ならそんな趣味があってもおかしくないだろう。実際社長の趣味は常人には理解しがたいものが多い。
それにしても公私混同というか、事務所に関係のなさそうなものを置いておくのはどうかとも思ったけれども、相手は社長。絶対君主でここのボスなんだから、それも仕方がないと私は早々に常識で考えることを放棄した。
そうしてしばらく片づけをしていたら、奥の方から白いビニールで覆われた大きな丸い機械みたいなものを出てきた。
色々なオブジェ、絵画、彫刻、何かの製造機とか本当に色々あったら今更その珍妙な形にも驚きはしなかったんだけど、何か気になったのよ。
いくつもスイッチのようなものがついていて、そこには四桁の数字とよく分からないマークみたいなものが。
おもちゃにしては随分としっかりとしていた作りをしていて、私は何だろうと思いながら好奇心で適当なスイッチを押してみたけど、特に何の反応もなかった。
『最上さん。どうかしたの?』
『いえ、ちょっとおもちゃにしては精巧な作りのものがあっただけです』
声をかけられたので、敦賀さんの方へ振り向いたのと同時に、ガガガと軋むような機械音が背後から響いた。
驚いて振り返って見ると、シューという何か噴出すような音と共に白い煙が、先程までは何の反応もなかった機械から立ち上る。
咄嗟にそれに手を伸ばすと、丸い機械はとても熱くなっていて触れることも憚れるほどだった。
『最上さん!』
余りの熱さと奇怪な異音を発する目の前のモノ。
一体何だというのか。
私は熱さに痺れた手を摩りながら、ただじっとそのモノを見つめていると、敦賀さんが何事かと私の元へ駆け寄って、摩っていた私の手を取る。
『火傷した?見せてごらん』
『だ、大丈夫です。ちょっと熱かったくらいなので……それよりも……』
白煙を上げながら僅かに振動していた機械が途端に大きく揺れ、耳が痛いほどの高音が射るように響く。
鼓膜が破れそうなくらい遠慮なく響く音から逃れようと耳を塞ぐが、音はどんどん大きくなっていくばかり。
その途端、視界が大きく揺れ景色がぐにゃりと歪んだ。
意識が遠のく中で、微かに感じたのは温かい体温とよく知っている香り。
ああ、これはきっと敦賀さんの腕の中だと思ったのとほぼ同時に、私は意識を手放したのだった。
*
私がきちんと記憶しているのはここまでだった。
そこから先は、断片的な記憶しかない。
余程混乱していたせいか、また頭を打ったせいなのか、それは分からない。
「ちゃんと覚えているのはここまでです。後は何となくぼんやりとしか……」
「そう。一種の記憶喪失かそれに似た類だとは思うけど……、ぼんやりとしていてもいいわ。他には何を覚えている?」
命子先生は、私の胸に当てていた聴診器を外して、次はどこかで打ったらしい右側頭部を診察してくれた。
「えっと……本当にぼうっとしていて曖昧なんですけど、知らない内に外にいました。何か色々な人に声をかけられたような気はするんですけど……あまりよく覚えていません」
彷彿としていた意識の中で、私はただ歩いていた。
ここが何処だとか、私は何をしているのかとか、そういうことは全く考えていなかったような気がする。
ただ足の向くままに歩いていた。
「あ、そうだ……確か変な男性に声をかけられた……ような気が……」
「変な男性?」
「はい。ちょっと強面の二人とその後ろに何人か二十代くらいの人達だったかな……?」
突然私を見るなり、何事かを言っていたのだけれども、意識が曖昧だった私は何を言われているのか全く分からなかった。
ただ私が持っていた“何か”を取り上げて、それで二人は何処かへと立ち去った。
「何を盗られたの?」
「それが、よく分からない……あ、もしかしてあの機械かな?大きさも重さもそんな感じだったような」
「それで、その後は?」
「強面の二人が立ち去った後に、後ろにいた何人かの男達が私を取り囲んで…………一体何なのか分からなかったんですけど、取りあえず身の危険を感じたので逃げました」
「そう」
頭の方も特に問題なさそうだけど、念の為にCTを取っておきましょうねと命子先生は言いながら、少し飲んだほうがいいと水を差し出してくれた。受け取った透明なコップに口をつけて、一気に喉の奥にまで流し込むと、幾分霞ががかっていた意識がはっきりしたような気がした。
「それから、何とか振り切ろうと走ったんですけど、結局捕まってしまって……。腕を捕まれた時にバランスを崩して近くの花壇に向かって倒れちゃったんです。それからは記憶がありません」
「気を失ったあなたを三代目が運んできた時に、あなたが花壇に頭をぶつけたらしいって言ってたから、きっとその時ね、三代目が助けに入ったのは」
「そうですか。それじゃ、後でもう一度お礼言わなくちゃ」
確かに頭を打って意識がなくなる寸前、明るい髪の男性らしい背中を見たような気がする。
そうか、それがさっきの彼だったんだ。
「とりあえずカルテを作っておくから、名前とかここに書いてくれる?」
「はい」
命子先生が折りたたんであったベットテーブルを広げ、その上にA4大の紙とペンを置く。
名前と血液型を書き込い、その下にある生年月日に記入した時だった。
「ちょっと待って、キョーコちゃん。まだ記憶が混乱してるの?」
「え?」
「あなたが本当にその年に生まれたなら、あなたは三十代ってことになるけど……まさかそんな事ないわよね?。冗談を書く元気があるなら安心だけど、一応カルテだからちゃんとした生年月日を書いてくれなきゃ」
私は書き間違えたかと、慌てて生年月日の欄を確認したが、間違いなど何処にもなかった。
「間違ってないですよ?三十歳を超えてるなんて、命子先生こそ冗談言わないでくださいよ。第一、私はまだ十七歳です」
「間違ってないって……だってあなた……」
命子先生は最初こそ冗談のように笑っていたが、空気を察したのか途端に真面目な顔をして、懐から何かを取り出した。
「何です?それ?」
「携帯電話よ」
「え?これが携帯なんですか?うわ、何かハイテクですね。大きな液晶までついてるし」
それは電子手帳のような形の携帯だった。
カードのように薄型で、カチっと命子先生がそれを開くと、かなり大きい液晶画面がパッと白く光る。
そして何番か番号を押すと、何度か呼び出し音が鳴り、プツっという音と共に人の顔が映った。
「あ、さっきの男性。これテレビ電話だったんですね。最近はこんな高機能な携帯が出てるんですねぇ。テレビ電話機能がついている携帯があるのは知ってましたけど、この形の携帯は初めて見ました。私の携帯とは大違いです」
私はツナギのポケットに入れておいた携帯を取り出し、命子先生に見せると、先生はかなり驚いたように目を見開いた。
『おい、命子。どうしたんだ?何かあったのか?』
「さ、三代目……ちょっとすぐに来てください!」
顔色が一気に悪くなった命子先生は、上擦った声でそう言うと、携帯を閉じてふうっと息を大きく吐いた。
間もなくして、さっきの男性が部屋に入ってくるとすぐに駆け寄って何事かを耳打ちをしていた。
「なんだと?」
三代目と呼ばれた男性は、先程の命子先生と同じように目を一瞬だけ見開いて、それから私の目のまでやってくるとベットテーブルに置いた私の携帯を手に取った。
「これは本当にお前のものなのか?」
「そうですけど……何か変ですか?」
私の携帯をまじまじと見つめながら、難しく顔を顰めて彼はもう一度私に視線を戻した。
「確かにお前の携帯には2003年と映っているな」
「だって今はそうじゃないですか?」
「俺の携帯を見ろ」
「え?」
彼は懐から命子先生と同じ形をした携帯を取り出すと、それを私によく見えるようにベットテーブルの上に私の携帯と並べて置いてくれた。
「今、販売されている携帯電話は、俺や命子が持っている形だけなんだ」
「それってどういう……」
「そしてこれは今の年号だ」
私の言葉を遮るようにして彼は手帳型の携帯のディスプレイを指差す。
示された箇所に映る数字を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
“2021年 XX月XX日”
「ここは東京……俗称・狂都市“Crazy paradise”だ」
Next→ ACT 3. 知らない世界でただ一人
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【あとがき】
クロスジャンル 【Skip in the future】
ACT 2. Welcome to Tokyo crazy paradise!
ACT.2でございますv
何とか蓮さん登場(……回想の中だけど・笑)
竜二君がえらい書きやすいのは私の気のせいなのか!?
さて、次はどうしましょう??
作成 2008/05/09
更新 2008/11/20 23:26
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